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「Solar Desalination」技術論文の紹介

  昨年、「Solar Desalination」技術に関する対照的な2つの論文が発表されているので紹介します。

 

 一つ目の論文は、10月にJoule誌に発表された、中国上海交通大学と米国MITの研究グループによる、太陽熱を利用する完全自律の多段膜蒸留システムに関する論文。このシステムでは太陽熱による加温で生じる密度差と水分蒸発で生じる密度差の双方が相まって対流が生起、その結果として蒸留膜面に沿って海水が流れて蒸気が蒸留膜を通して隣接する空気層に移動する。更に装置の設置面が海水面よりも低い事で、蒸気として失われた水量分の海水が自然に供給される。

 論文は、「Extreme salt-resisting multistage solar distillation with thermohaline convection」というタイトルでJoule誌のVolume 7, Issue 10, 18 October 2023, Pages 2274-2290に掲載されているが、フリーアクセスなので以下よりダウンロードが可能。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2542435123003604

 

 二つ目の論文は、中国天津の研究者グループが手掛けている「Solar-powered simultaneous highly efficient seawater desalination and highly specific target extraction with smart DNA hydrogels」というタイトルで、Science誌の兄弟誌であるScience Advancesの22 Dec 2023, Vol 9, Issue 51に掲載されている。こちらもフリーアクセスなので以下よりダウンロードが可能。

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adj1677

 

 こちらの技術は、構成材料にDNAを用いたハイドロゲルを応用した技術である。ハイドロゲルはネットワーク状の親水性高分子で形成される。高分子としてDNAを用いたDNA hydrogelは、ネットワーク内の微小空間構造を設計することが可能で、内部に入った流体の動きの制御や狙った分子の捕獲などが実現できるため最近注目されている技術である。

 論文で報告されたDNA hydrogel技術は内部での蒸発を非常に活発化できるので太陽熱で容易に海水を蒸留することが出来る。加えて構造制御によりターゲット分子を効率的に捕獲することが可能であり、論文ではウランを効率的に捕獲したことが報告されている。

 さて、Solar DesalinationあるいはSolar-powered Desalinationと言えば、まずは太陽光発電で得た電力を用いる海淡プラントが思い浮かぶが、上記で紹介したような、システムの工夫や新しい材料の応用などの研究開発も各地で盛んに行われているようである。そのような背景から、Nature の兄弟誌であるNature CommunicationsではMaterials and systems for solar-powered desalinationという特集向けの論文投稿を2024年3月1日締め切りで受け付けている。

 

以上