国際標準として開発される ISO 規格は、一部の認証を伴う規格(Management system standard)を除き、大多数はガイドライン(指針)です。ガイドラインは強制適用ではなく、規格の適用は各人の判断に委ねられますが、国際的な商取引を行う上での標準として大きな効果があります。特に、WTO 政府調達協定では、協定加盟国の調達の際に、国際規格に準拠した製品(技術仕様)の調達が義務付けられているなど、技術の信頼性等からも国際入札の対象となり市場を確保するうえで重要な要素になります。そのため、各国とも自国の技術に有利になる国際規格の開発を念頭に活動しているといえます。
水分野の国際標準化(引用文献1)は、当初、有力な水事業運営会社(水メジャー)を擁するフランス勢が、海外進出の拡大に必要な上下水道事業の質を高める手段として、2001 年に TC224(上下水道サービス事業)を設立し、関連する規格(ガイドライン)づくりを開始したことで、活動が本格化しました。これに続き、イスラエルが、国内の水再利用の実績を背景に、2010 年に PC253(処理水の灌漑利用)を設立し、再生水の灌漑利用プロジェクトに関する規格づくりを開始させました。後の 2013 年に中国、日本とともに設立した TC282(水の再利用)の中で SC1(灌漑利用)として継承しています。一方、中国は、自国の大きな再生水市場を背景に、海外技術の導入・自国技術の育成のため、TC282 の中で SC2(都市利用)を立上げました。これに対して、日本は、優れた再生水技術の海外展開のため、MBR(膜分離活性汚泥法)の標準化をめざして SC3 を立上げ、リスクと性能評価に関する規格開発を進めています。さらに、イスラエルと中国は、 SC4(工業利用)を立上げ、各国が各 SC で主導権をとりながら規格開発を進めています。
海水淡水化に関連する国際標準化は、中国が、TC8(船舶と海洋技術)の中のSC13(海洋技術)にWG3(海水淡水化)を2015年に立上げています。TC8の国内審議団体は、(一財)日本船舶技術研究協会であり、その下のSC13/WG3の検討委員会は、(一財)造水促進センターが担当し、JDA協会と連携のもと中国が提案する規格をチェックし、日本企業が不利にならないようにコメントを作成しています。提案者は、中国/天津海淡研究所のGuoling Ruan氏で、海淡水の水質グレードの規格開発が進められ、2021年12月にISOとして発行しています。詳細な内容は、著作権の関係で記載することはできないので、日本規格協会やISO事務局から発行図書を購入して参照ください。ROの生産水の技術要件をまとめたものとなっております。タイトルと目次を次に示します。
ISO23446(2021)
Marine technology — Guidelines for product water quality of seawater reverse osmosis (RO) desalination for municipal water supply
1. Scope
2. Normative references
3. Terms and definitions
4. Desalted water quality
5. Product water quality
6. Monitoring frequency
7. Test methods
Annex A (informative) Test method of Calcium Hardness
Annex B (informative) Calculation method of LSI
Annex C (informative) Information of product water quality of seawater RO desalination in some countries
Bibliography
次いで、2022年1月に中国は、海水淡水化関連の規格として、「用語」の規格開発提案を行っています。今回の提案は、RO法だけでなく、蒸発法に関する用語も含まれています。まだ、内容の詳細は不明ですが、今後、規格の内容について明らかになると思われます。今後も海水淡水化関連の規格開発が中国主導で行われることが予想されており、規格開発に興味のある方は、是非、JDA協会事務局に連絡をください。
引用文献1
加藤、大熊、中村;下水道協会誌, vol58,No709,44-49(2021)